2007.02.16 Friday
八甲田雪崩 「雪にながされていった」
青森市の八甲田山系・前嶽山頂付近で山岳スキー中の団体客らが雪崩に巻き込まれ、2人が死亡、8人がけがをした遭難事故から一夜明けた15日、客18人を引率した5人のガイドのリーダー、其田忠佳さん(55)が市内で会見した。其田さんは12日にも同山頂付近で雪崩があったことについて「危険性を考慮し、この日は通常のコースをやめ、樹林帯のある下方のルートに変えた」と語った。県警青森署は、悪天候のため15日に予定していた現場検証を延期した。
其田さんは「亡くなられた方には、何とも申し訳のしようがない」と謝罪したうえで、遭難の瞬間について「(巻き込まれた人たちは)深く埋まるというより、雪に流されていった」と振り返った。
其田さんによると、一行は雪崩の直前に2班に分かれ、死亡した2人を含む客6人とガイド1人は下方の沢の方に進んだ。其田さんら他のメンバーは濃くなり始めたガスを避けるため、やや遅れて沢の上にある樹林帯に向かったという。
其田さんは「(沢に向かった班は)熟練者ばかりだった。コースは天候や風向きなどを判断して決めている。樹林帯は万が一雪崩が起きても大丈夫だと思った」と沈痛な表情で語った。
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青森市の八甲田山系にある前嶽(1252メートル)北側斜面で14日に山スキーのツアー客ら10人が死傷した雪崩事故で、今回の雪崩現場の真上の斜面で2日前にも真新しい雪崩の跡が見つかり、ガイドとツアー客はこれを避けて滑走中に事故に遭ったことが、青森県警の調べでわかった。
ガイドからは「雪崩現場を避けて下の方で滑った」という内容の供述が出ているといい、県警は、雪崩が起きていたことを知りながらツアーを実施したガイドらの判断に問題がなかったかどうかについて、関係者から事情を聞くなどして調べている。
県警や関係者によると、12日に見つかった雪崩は、今回の事故があった斜面よりも山頂に近い場所で、同日に起きたとみられる。雪崩の規模は幅約20メートル、長さ約50メートルとみられ、今回の現場からは100〜200メートル離れていた。県警によると、ツアー客は初心者と上級者が別々のグループを作り、この雪崩の現場を避けるようにして、初心者はやや離れた緩斜面を滑った。上級者は、雪崩現場に、より近い急斜面を滑走していて雪崩が起き、上級者を中心に巻き込まれたという。県警に対し、ガイドは「雪崩は想定できなかった」などと説明しているという
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日本を代表する山岳スキーコース八甲田山系の「銅像コース」で14日起きた雪崩事故。県内ではここ数日、雪崩注意報が連続して発令され、近づく低気圧の影響で、天気予報で注意を呼びかけている中、実施された山岳スキーは、死者2人、重軽傷者8人を出す痛ましい結果になった。現場の山中は猛烈な吹雪に見舞われてヘリは使えず、消防や県警、自衛隊などが人海戦術で必死の救出作業を行った。負傷者らを収容した市民病院、県立中央病院に、夜遅くまで関係者らが集まり、「大丈夫か」と不安の表情を募らせた。地元ガイドも随行して、突然の雪崩で予想できなかったという声がある一方で、相次ぐ雪崩注意報と近づく低気圧の影響を考えると、中級者用のコースとはいえ、犠牲者を出したことで、関係者からは「判断は適切だったのか」との声も出ている。【八甲田山雪崩事故取材班】
●一報
14日午前11時半ごろ、ガイドが無線で「雪崩に巻き込まれた」と救助を要請。この無線を傍受した市民から県警に110番通報があった。
雪崩の発生は午前11時ごろで、場所は八甲田山系の前嶽山頂付近。巻き込まれたのは酸ケ湯温泉に滞在していた客18人と、同温泉所属のスキーガイド5人、同温泉の女性従業員1人だった。
●気象台
青森地方気象台は14日午前11時10分、県内全域に「雪崩注意報」を発令し、注意を呼び掛けていた。11日午前7時22分から13日午前4時36分までも雪崩注意報が出ており、最近数日間は雪崩の危険が続いていた。雪崩注意報発令の基準は、標高200メートル以上の山沿いで、24時間の降雪40センチ以上、積雪50センチ以上、平均気温5度以上が数日間続くなどの条件が定められている。同気象台は「全国的に低気圧で天気が荒れており、(スキーには)出ないことに越したことはない」と話している。
一方、八甲田ロープウェーの山ろく駅近くにある「八甲田山荘」(青森市荒川)を経営する芦沢さん(70)は「雪崩が起きやすい山の斜度は45度だが、八甲田は35度なので、むしろ起きにくい山だ。雪が降り出したのは今日からなので、昨日から表層雪崩が起きることは考えにくい。ただし今日の気温のマイナス3度から、プラス3度までの間の時は、雪崩が起きたり、風が吹き荒れるなどいやなことが起きると言われている。ガイドは雪の亀裂を見るなど兆候の予見能力があるが、それでも雪崩が起きるかは分からないものだ」と指摘した。
●ガイド隊長
今回の24人のスキーツアーの中心的ガイド、其田忠佳・八甲田山アウトフィールドスクール隊長は「自分にけがはない。滑り始めの時点では、視界はさほど悪くなかった。雪崩が起きそうだという感触はあった。しかし、まさかあそこで上から雪崩が来るとは……。銅像ルートは何回も滑っているルート。これほど突然の雪崩は予期できなかった。斜面の下の方に木が立っていたので、雪崩は来ないと判断した」と話している。
雪崩が起きた時の状況について、其田隊長は「雪崩は背後から来たようだ。我々がけった(結果による)ものではなくて……。雪崩の幅などは分からない。雪煙が見えたので『(雪崩が)来た』と思ってすぐに救助に走った。人の声などは聞こえなかった」という。
雪崩の後の状況については、其田隊長は「亡くなった2人は木にぶつかり、意識を失っていた。雪崩は速く、その勢いで木にぶつかったと思われる。それが死因につながったのでは。このポイントで雪崩に遭遇した経験はこれまでにない。雪崩が起きない場所を選んだつもりだったが……。発生直後に2人を発見した。すぐに体を起こして人工呼吸した。亡くなった方を救助するので精いっぱいだった。雪に埋まっていた人もいたが、亡くなった2人は、雪にはほとんど埋まっていなかった。2人は隊列の後方にいた。3グループに分かれて滑っていた。亡くなった2人がいたグループは比較的スキー経験豊富で、八甲田に来るのも初めてではなかった」と話している
●計画変更
友人と2人で酸ケ湯温泉に宿泊している茨城県桜川市、藤田さん(33)ら約20人が参加したスノーボードツアーは当初、雪崩が起きた「銅像ルート」で滑る予定だった。しかし、「3人前後いたガイドの人が『天候が悪い』と判断し、常設コースに変更された」と話す。「午前10時ごろロープウエーの下の駅に集合したとき、周辺は比較的穏やかな天候だった。しかし、だんだん風が強くなり、視界も悪くなった。午後3時ごろホテルに戻ろうと車を走らせたが、前方が真っ白になり怖かった」という。
●現場
雪崩発生直前から現場付近の天候は一変し、猛烈な吹雪に見舞われた。県は午後0時34分、自衛隊に災害派遣要請を行い、同時に現場から約1キロ北の銅像茶屋付近に青森地域広域消防本部が現地対策本部を設置して救助活動に着手した。しかし、荒天にはばまれて県の防災ヘリや自衛隊ヘリが飛べずに救助作業は手間取った。
一方、現場では、24人同様に山岳スキーを楽しんでいた豪州人7人と米国人ガイド1人の計8人が雪崩を目撃し、すぐに救助活動を行った。このうちの1人は「何人が埋まっていたかは夢中で覚えていない。現場はとても静かだった。助かった人は固まってじっとしており、埋まっている人たちを助けようと手で雪を掘る人もいた。天候はどんどん悪化し、助かった人を寒さから守るため2メートルほどの壁を丸く作り、中に穴を掘って人を入れた。自分も寒かったが、その場を離れられなかった。慰め続けた」と説明した。
●病院会見
搬送された8人(死亡2人、重体1人、重傷4人、軽傷1人)の容体について、治療にあたった青森市の県立中央病院救命救急センターが午後8時過ぎから同病院で記者会見した。
けが人は6人。
死亡した2人は、いずれも男性で1人は頭蓋底骨折、1人は右血気胸や骨盤骨折などを負っていた。けがをした6人はいずれも意識があるという。
其田さんは「亡くなられた方には、何とも申し訳のしようがない」と謝罪したうえで、遭難の瞬間について「(巻き込まれた人たちは)深く埋まるというより、雪に流されていった」と振り返った。
其田さんによると、一行は雪崩の直前に2班に分かれ、死亡した2人を含む客6人とガイド1人は下方の沢の方に進んだ。其田さんら他のメンバーは濃くなり始めたガスを避けるため、やや遅れて沢の上にある樹林帯に向かったという。
其田さんは「(沢に向かった班は)熟練者ばかりだった。コースは天候や風向きなどを判断して決めている。樹林帯は万が一雪崩が起きても大丈夫だと思った」と沈痛な表情で語った。
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青森市の八甲田山系にある前嶽(1252メートル)北側斜面で14日に山スキーのツアー客ら10人が死傷した雪崩事故で、今回の雪崩現場の真上の斜面で2日前にも真新しい雪崩の跡が見つかり、ガイドとツアー客はこれを避けて滑走中に事故に遭ったことが、青森県警の調べでわかった。
ガイドからは「雪崩現場を避けて下の方で滑った」という内容の供述が出ているといい、県警は、雪崩が起きていたことを知りながらツアーを実施したガイドらの判断に問題がなかったかどうかについて、関係者から事情を聞くなどして調べている。
県警や関係者によると、12日に見つかった雪崩は、今回の事故があった斜面よりも山頂に近い場所で、同日に起きたとみられる。雪崩の規模は幅約20メートル、長さ約50メートルとみられ、今回の現場からは100〜200メートル離れていた。県警によると、ツアー客は初心者と上級者が別々のグループを作り、この雪崩の現場を避けるようにして、初心者はやや離れた緩斜面を滑った。上級者は、雪崩現場に、より近い急斜面を滑走していて雪崩が起き、上級者を中心に巻き込まれたという。県警に対し、ガイドは「雪崩は想定できなかった」などと説明しているという
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日本を代表する山岳スキーコース八甲田山系の「銅像コース」で14日起きた雪崩事故。県内ではここ数日、雪崩注意報が連続して発令され、近づく低気圧の影響で、天気予報で注意を呼びかけている中、実施された山岳スキーは、死者2人、重軽傷者8人を出す痛ましい結果になった。現場の山中は猛烈な吹雪に見舞われてヘリは使えず、消防や県警、自衛隊などが人海戦術で必死の救出作業を行った。負傷者らを収容した市民病院、県立中央病院に、夜遅くまで関係者らが集まり、「大丈夫か」と不安の表情を募らせた。地元ガイドも随行して、突然の雪崩で予想できなかったという声がある一方で、相次ぐ雪崩注意報と近づく低気圧の影響を考えると、中級者用のコースとはいえ、犠牲者を出したことで、関係者からは「判断は適切だったのか」との声も出ている。【八甲田山雪崩事故取材班】
●一報
14日午前11時半ごろ、ガイドが無線で「雪崩に巻き込まれた」と救助を要請。この無線を傍受した市民から県警に110番通報があった。
雪崩の発生は午前11時ごろで、場所は八甲田山系の前嶽山頂付近。巻き込まれたのは酸ケ湯温泉に滞在していた客18人と、同温泉所属のスキーガイド5人、同温泉の女性従業員1人だった。
●気象台
青森地方気象台は14日午前11時10分、県内全域に「雪崩注意報」を発令し、注意を呼び掛けていた。11日午前7時22分から13日午前4時36分までも雪崩注意報が出ており、最近数日間は雪崩の危険が続いていた。雪崩注意報発令の基準は、標高200メートル以上の山沿いで、24時間の降雪40センチ以上、積雪50センチ以上、平均気温5度以上が数日間続くなどの条件が定められている。同気象台は「全国的に低気圧で天気が荒れており、(スキーには)出ないことに越したことはない」と話している。
一方、八甲田ロープウェーの山ろく駅近くにある「八甲田山荘」(青森市荒川)を経営する芦沢さん(70)は「雪崩が起きやすい山の斜度は45度だが、八甲田は35度なので、むしろ起きにくい山だ。雪が降り出したのは今日からなので、昨日から表層雪崩が起きることは考えにくい。ただし今日の気温のマイナス3度から、プラス3度までの間の時は、雪崩が起きたり、風が吹き荒れるなどいやなことが起きると言われている。ガイドは雪の亀裂を見るなど兆候の予見能力があるが、それでも雪崩が起きるかは分からないものだ」と指摘した。
●ガイド隊長
今回の24人のスキーツアーの中心的ガイド、其田忠佳・八甲田山アウトフィールドスクール隊長は「自分にけがはない。滑り始めの時点では、視界はさほど悪くなかった。雪崩が起きそうだという感触はあった。しかし、まさかあそこで上から雪崩が来るとは……。銅像ルートは何回も滑っているルート。これほど突然の雪崩は予期できなかった。斜面の下の方に木が立っていたので、雪崩は来ないと判断した」と話している。
雪崩が起きた時の状況について、其田隊長は「雪崩は背後から来たようだ。我々がけった(結果による)ものではなくて……。雪崩の幅などは分からない。雪煙が見えたので『(雪崩が)来た』と思ってすぐに救助に走った。人の声などは聞こえなかった」という。
雪崩の後の状況については、其田隊長は「亡くなった2人は木にぶつかり、意識を失っていた。雪崩は速く、その勢いで木にぶつかったと思われる。それが死因につながったのでは。このポイントで雪崩に遭遇した経験はこれまでにない。雪崩が起きない場所を選んだつもりだったが……。発生直後に2人を発見した。すぐに体を起こして人工呼吸した。亡くなった方を救助するので精いっぱいだった。雪に埋まっていた人もいたが、亡くなった2人は、雪にはほとんど埋まっていなかった。2人は隊列の後方にいた。3グループに分かれて滑っていた。亡くなった2人がいたグループは比較的スキー経験豊富で、八甲田に来るのも初めてではなかった」と話している
●計画変更
友人と2人で酸ケ湯温泉に宿泊している茨城県桜川市、藤田さん(33)ら約20人が参加したスノーボードツアーは当初、雪崩が起きた「銅像ルート」で滑る予定だった。しかし、「3人前後いたガイドの人が『天候が悪い』と判断し、常設コースに変更された」と話す。「午前10時ごろロープウエーの下の駅に集合したとき、周辺は比較的穏やかな天候だった。しかし、だんだん風が強くなり、視界も悪くなった。午後3時ごろホテルに戻ろうと車を走らせたが、前方が真っ白になり怖かった」という。
●現場
雪崩発生直前から現場付近の天候は一変し、猛烈な吹雪に見舞われた。県は午後0時34分、自衛隊に災害派遣要請を行い、同時に現場から約1キロ北の銅像茶屋付近に青森地域広域消防本部が現地対策本部を設置して救助活動に着手した。しかし、荒天にはばまれて県の防災ヘリや自衛隊ヘリが飛べずに救助作業は手間取った。
一方、現場では、24人同様に山岳スキーを楽しんでいた豪州人7人と米国人ガイド1人の計8人が雪崩を目撃し、すぐに救助活動を行った。このうちの1人は「何人が埋まっていたかは夢中で覚えていない。現場はとても静かだった。助かった人は固まってじっとしており、埋まっている人たちを助けようと手で雪を掘る人もいた。天候はどんどん悪化し、助かった人を寒さから守るため2メートルほどの壁を丸く作り、中に穴を掘って人を入れた。自分も寒かったが、その場を離れられなかった。慰め続けた」と説明した。
●病院会見
搬送された8人(死亡2人、重体1人、重傷4人、軽傷1人)の容体について、治療にあたった青森市の県立中央病院救命救急センターが午後8時過ぎから同病院で記者会見した。
けが人は6人。
死亡した2人は、いずれも男性で1人は頭蓋底骨折、1人は右血気胸や骨盤骨折などを負っていた。けがをした6人はいずれも意識があるという。