2006.10.12 Thursday
出発1時間早ければ… 事故検証 装備の軽さ 評価は二分
北アルプス・白馬岳で7日に起きた九州のパーティー7人の遭難事故は、4人凍死という結末を迎えた。紅葉を楽しむはずの山歩きから一変、真冬並みに姿を変えた3000メートル級の稜線(りょうせん)での惨事は、登山の危険をあらためて浮き彫りにした。
■真冬並み雪嵐も不運
遭難発生から2日後の9日午前5時49分。悪天候に阻まれていた長野県警のヘリが、ようやく救助に飛び立った。26分後。真っ白に雪が積もった稜線上に、凍り付いた遺体が見つかった。目指した山荘までわずか300メートル足らずだった。
10月初旬の北アルプスは、紅葉を眺め、秋晴れの稜線を歩くには絶好の季節。例年、この時期に初冠雪を観測するため、霧氷を狙ったアマチュアカメラマンも押し寄せる。
だが、下旬になれば一変する。1メートル以上の積雪に見舞われることもあり、アイゼンやピッケルなど装備を使いこなせる熟練者向けの山に変容する。雪は腰の高さに達し、風雪が顔をたたく。今回の事故は、通常なら積雪のない時期に、真冬並みのブリザード(雪嵐)が襲った気象の激変が最大の原因だった。
パーティーは7日午後3時半ごろ、急速に発達した低気圧につかまった。経験豊かな登山ガイドのほか、53‐67歳の女性5人。ヒマラヤ散策の経験者もいて、「体力は十分だった」(登山ガイド)という。
雨具や防寒具、簡易テントを持っていたというが、猛烈なブリザードの前では無力だった。もし、冬山並みの重装備で臨んでいれば‐。1人の重量は20キロ以上になると見込まれ、逆に動きは遅くなる。軽い装備で臨む方がスピードアップになるため、軽装が即、遭難を招いたとは言えない。
パーティー最高齢の女性(67)は、無傷で山小屋にたどり着いた。2年前にこのルートを登っていた。「あと少し行けば山小屋がある」。体力差と同時に経験の有無が心の余裕を生み、明暗を分けた可能性もある。
犠牲者が力尽きたのは稜線上だった。木々が生い茂る森林限界(上限)を越えて稜線に出ると、そこは遮るものが何もない。記者も以前、北アルプスの別の山で、森林限界付近に張ったテントが飛ばされそうになった経験がある。稜線に出ると、体ごと持ち上げられるような風を体験した。
今回、7日午前5時の出発から10時間近く。疲れた状況でみぞれに打たれ、さらに気温の低下でぬれた衣服がバリバリと凍る。吹きさらしの状態で強風に見舞われ、進むことも、退くこともできなくなってしまった。
山では、日没前のかなり早い時間に目的地に着くのが常道とされる。パーティーの山荘到着予定時刻は午後4時。何かのトラブルで遅れれば、ぎりぎりの時間となる。結果論だが、あと1時間早く稜線上に達する計画だったら、状況は違ったかもしれない。
ガイドの「判断ミス」に帰結するのは簡単だが、今回の惨事は、国内の2000メートル級の山でも同様に起こり得るということを、多くの登山者にも知っておいてほしい。
西日本新聞より抜粋
■真冬並み雪嵐も不運
遭難発生から2日後の9日午前5時49分。悪天候に阻まれていた長野県警のヘリが、ようやく救助に飛び立った。26分後。真っ白に雪が積もった稜線上に、凍り付いた遺体が見つかった。目指した山荘までわずか300メートル足らずだった。
10月初旬の北アルプスは、紅葉を眺め、秋晴れの稜線を歩くには絶好の季節。例年、この時期に初冠雪を観測するため、霧氷を狙ったアマチュアカメラマンも押し寄せる。
だが、下旬になれば一変する。1メートル以上の積雪に見舞われることもあり、アイゼンやピッケルなど装備を使いこなせる熟練者向けの山に変容する。雪は腰の高さに達し、風雪が顔をたたく。今回の事故は、通常なら積雪のない時期に、真冬並みのブリザード(雪嵐)が襲った気象の激変が最大の原因だった。
パーティーは7日午後3時半ごろ、急速に発達した低気圧につかまった。経験豊かな登山ガイドのほか、53‐67歳の女性5人。ヒマラヤ散策の経験者もいて、「体力は十分だった」(登山ガイド)という。
雨具や防寒具、簡易テントを持っていたというが、猛烈なブリザードの前では無力だった。もし、冬山並みの重装備で臨んでいれば‐。1人の重量は20キロ以上になると見込まれ、逆に動きは遅くなる。軽い装備で臨む方がスピードアップになるため、軽装が即、遭難を招いたとは言えない。
パーティー最高齢の女性(67)は、無傷で山小屋にたどり着いた。2年前にこのルートを登っていた。「あと少し行けば山小屋がある」。体力差と同時に経験の有無が心の余裕を生み、明暗を分けた可能性もある。
犠牲者が力尽きたのは稜線上だった。木々が生い茂る森林限界(上限)を越えて稜線に出ると、そこは遮るものが何もない。記者も以前、北アルプスの別の山で、森林限界付近に張ったテントが飛ばされそうになった経験がある。稜線に出ると、体ごと持ち上げられるような風を体験した。
今回、7日午前5時の出発から10時間近く。疲れた状況でみぞれに打たれ、さらに気温の低下でぬれた衣服がバリバリと凍る。吹きさらしの状態で強風に見舞われ、進むことも、退くこともできなくなってしまった。
山では、日没前のかなり早い時間に目的地に着くのが常道とされる。パーティーの山荘到着予定時刻は午後4時。何かのトラブルで遅れれば、ぎりぎりの時間となる。結果論だが、あと1時間早く稜線上に達する計画だったら、状況は違ったかもしれない。
ガイドの「判断ミス」に帰結するのは簡単だが、今回の惨事は、国内の2000メートル級の山でも同様に起こり得るということを、多くの登山者にも知っておいてほしい。
西日本新聞より抜粋